「田舎暮らしに何を求めますか?」
この問いに対して、多くの人が「自然の中での暮らし」と答えるのではないでしょうか。
確かに、田舎には都会にはない美しい自然があります。
でもちょっと待ってください。
一口に“自然”と言っても、その中身は本当にさまざまです。
「山があるから自然豊か」「海が見えるから田舎らしい」……それだけで語れるものではありません。
この記事では、私自身の経験をもとに、「自然環境の違いが暮らしのスタイルにどんな影響を与えるのか」を具体的にご紹介していきたいと思います。
これから移住を考えている方には、ぜひ「どんな自然と暮らしたいのか」を考えるヒントにしていただけたらうれしいです。
自然と一口に言っても、ほんとうにいろいろ
自然環境のタイプはざっくり分けると「海」と「山」ですが、実はそれぞれの中にもさらに細かい違いがあります。
たとえば「山」と言っても、
- 中山間地域にある山
- 盆地から眺める山
- 人工林が広がる山
- 自然林が残る山
……どれも“山”ですが、暮らしへの影響は大きく異なります。
「自然があるなら何でもいいや」ではなく、自分に合う自然、自分が心地よいと思える自然がどんなものかを知ることが、田舎暮らしを考える上でとても大切なんです。
山か海かだけで、暮らしはこんなに変わる
まず、わかりやすい「山のある地域」と「海のある地域」の違いを比べてみましょう。
生活要素 | 山のある地域 | 海のある地域 |
---|---|---|
食べ物 | 山菜・きのこ・ジビエ・川魚(アユ、イワナなど) | 鮮魚・貝類・干物・海苔・郷土料理(刺身、煮付け、干物など) |
土地利用 | 段々畑・棚田・山裾の限られた平地に住宅が点在 | 比較的広い平野で住宅・農地が展開しやすく、海岸沿いに集落が形成される |
レジャー | 登山、渓流釣り、森林浴、川遊び、キャンプ | 海水浴、釣り、SUP・カヤックなどマリンスポーツ、潮干狩り |
自然災害 | 土砂崩れ、落石、豪雪、山林火災 | 津波、高潮、塩害、台風、海岸浸食 |
暮らしの音 | 鳥のさえずり、風にそよぐ木々の音、川のせせらぎ | 波の音、ウミネコやカモメの鳴き声、港のエンジン音 |
ライフワーク(生業) | 林業、小規模・集約型農業(野菜、果樹)、狩猟 | 漁業、大規模農業(畑作・稲作)、水産加工業 |
「海か山か」で、食べるものも遊ぶ場所も、災害リスクも変わってきます。
たとえば釣りが好きな人にとっては、山奥の暮らしより海辺のほうが断然魅力的でしょうし、逆に静かで涼しい森の空気に癒されたい人にとっては、海風の強い沿岸部は合わないかもしれません。
同じ“山間部”でも、風景も暮らしもまったく違う
さらに細かく見ていくと、同じ山間地帯の中でも「盆地」と「中山間地域」では大きな違いがあります。
盆地の暮らし
- 比較的広い平野があり、農地や住宅が広がっている
- 周囲に山があるが、日常的には“遠くに見える存在”
- 川はゆったりと流れる大きな河川が多く、河川敷は遊び場に
中山間地域の暮らし
- 平地が少なく、山と住宅地がすぐ隣
- 川は細くて清らかな支流が多く、渓谷や滝も
- 山と密接に関わる生活スタイル(薪づくり、キノコ採りなど)
中山間地域では、「山が見える」ではなく「山と暮らしている」感覚になります。日常的にイノシシや鹿に出会うこともありますし、庭から数分歩けば渓谷があったりもします。
一方、盆地では広い空と安定した生活圏の中で、適度に自然と触れ合う暮らしが楽しめます。
「自然と距離を取りたいか」「自然に包まれたいか」――そんな価値観によって、向いている地域も変わってくるのです。
山の植生も、暮らしに影響を与える
山と言えば“緑”というイメージですが、その緑にも違いがあります。
人工林のある山
- スギやヒノキが中心。整然と並ぶ木々
- 林業の対象として整備されている
- 遊び場というより、仕事や管理の対象
- 手入れがされていないと薄暗く、荒れた印象になることも
自然林のある山
- 様々な木々が混ざり合う、多様な植生
- 春の山菜、秋のきのこなど“自然の恵み”が豊か
- 散歩や探検が楽しく、四季の変化もダイレクトに感じられる
最近は林業が衰退し、手入れのされない人工林も増えていますが、逆に自然林を保全・活用する活動が盛んになってきています。
どちらの山が近くにあるかで、日常の景色も、楽しみ方も変わってきます。
自然には“良い季節”と“しんどい季節”がある
「自然の中での暮らし」と聞くと、春の花、夏の緑、秋の紅葉……と美しい季節を思い浮かべがちですが、自然には当然「しんどい季節」もあります。
- 冬には雪が積もって、買い物や通勤が大変になることも
- 台風の時期には、川が毎年のように氾濫する地域も
- 山あいでは、土砂崩れや落石のリスクも常にある
四季の移ろいを肌で感じられるのは田舎暮らしの魅力ですが、それは同時に自然と向き合い続けることでもあります。
「自然はすばらしい」と手放しで言えるのは、しっかり備えがあるからこそ。
その覚悟も、自然のある暮らしには欠かせません。
どんな自然と暮らしたいか。それが暮らし方を決める
この記事でお伝えしたかったのは、「田舎=自然豊か=どこでもOK」ではないということです。
- 山が近いのか、遠いのか
- 海があるのか、ないのか
- 自然との距離感はどれくらいか
- 日常で自然とどう関わりたいのか
こうした要素によって、暮らしのスタイルそのものが変わってきます。
全部の自然が揃っている“完璧な田舎”なんて、まず存在しません。だからこそ、自分が求める自然の姿をしっかりイメージすることが、移住の第一歩になると思います。
おわりに
自然とともに暮らす――それは、ただのスローライフではなく、自然を知り、選び、向き合いながら生きていくことだと私は思います。
「どんな自然と、どんなふうに暮らしたいか」
この問いに、自分なりの答えを見つけることができれば、きっと自分らしい田舎暮らしが始まるはずです。
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