地方移住を考える上で、多くの方が気になるのが「子どもの学校環境」。
「児童生徒が少ない」という話はよく聞きますが、田舎の学校の特徴はそれだけではありません。
近年では、都会の学校でも少人数化が進んでおり、単に“子どもの数の違い”だけでは、都会と田舎の学校の違いを語れなくなっています。
そこで今回は、私が暮らす中山間地域での実体験をもとに、「田舎の学校事情」をあえて“児童生徒数以外の視点”から掘り下げてみたいと思います。
1. 幼稚園から中学校まで“ずっと同じ顔ぶれ”
田舎では、町内に幼稚園、小学校、中学校がそれぞれ1校ずつしかないという地域も少なくありません。
当然、子どもたちは基本的に幼稚園から中学卒業までの約12年間、同じメンバーと過ごすことになります。
この環境にはメリットとデメリットの両面があります。
まず、友達との絆が非常に深くなるという点は大きなメリットです。長い時間を共に過ごすことで、相手の良いところも悪いところも自然と理解でき、強い信頼関係が生まれます。
一方で、人間関係の“逃げ場”がないという側面も。クラス替えも基本的にないため、人間関係が固定化されやすく、特に子ども同士のトラブルが起きた際の対応には周囲の大人の目配りが欠かせません。
また、保護者同士の関係も長期にわたって続きます。お互い顔見知りになるのは安心感にもつながりますが、適度な距離感を保つことが難しいと感じる方もいるかもしれません。
2. 通学はバスが基本。歩く機会が少ない現実
学校の数が少ないということは、当然ながら自宅から学校までの距離も長くなります。
そのため、バス通学が基本になります。専用の通学バスや地域の路線バスを利用することが一般的で、徒歩で通える子どもはごく一部です。
意外に思われるかもしれませんが、これは田舎の子育てにおける隠れた課題のひとつです。
「田舎の子は自然の中で体を動かして元気いっぱい」というイメージがありますが、実際には都会の子どもよりも歩かないという実態があります。
通学だけでなく、遊びに行くにも“どこかに連れて行ってもらう”必要があることが多く、日常的な運動量が確保しづらいというのは、親としても頭に入れておきたいポイントです。
3. 若い先生が多く、親しみやすい雰囲気に
田舎の学校には、若い先生が多いという特徴があります。
これは教員の採用や人事配置の仕組みによるもので、公立学校の教員は都道府県単位で採用され、さまざまな地域への配置を経験することになります。
その中で「僻地勤務」と呼ばれる田舎の学校は、若手教員の研修的な意味もあり、独身の若手が配属されやすい傾向があります。
結果として、田舎の学校はフレッシュな先生たちで構成されることが多く、児童生徒との距離が近く、活気ある雰囲気が生まれやすいという良さがあります。
とはいえ、若い先生が中心になることで、教職員全体としての経験値が不足するという面も否めません。
4. ベテランの地元出身教員が頼れる存在に
若手が多い一方で、地元出身のベテラン教員が地域に戻ってくるというパターンもよくあります。
一度都会で経験を積んだ先生が、家庭を持ち、ふるさとに戻ってくる――そんな形で地域に根差して働いている先生がいます。
このようなベテランの存在は、若手教員を支える貴重な存在ですし、学校と地域をつなぐ“橋渡し役”にもなってくれます。
ただ、間に中堅層が少ないために、若手とベテランのギャップが大きくなりがちなのも事実。組織全体としてのバランスという点では、ややアンバランスさが見られるのが、田舎の学校の特徴かもしれません。
5. 教育委員会が身近な存在に
都会に暮らしていると、「教育委員会」と聞いても、あまりピンとこない方が多いのではないでしょうか。
でも田舎では、教育委員会がとても身近な存在です。
地域によっては、町主催の行事や子ども向けイベントの企画・運営を教育委員会の職員が担当することも多く、実際に子どもたちと接する機会もあります。
保護者からしても、「ただのお役所」ではなく、子どもを一緒に育ててくれるパートナーのような感覚で関われることがあります。
また、学校の取り組みに対してもきめ細かく目配りしてくれるため、要望が通りやすかったり、改善のスピードが早かったりといった小回りの利く教育行政が可能になるのも、地方ならではの強みです。
6. 地域にとっての“おらが学校”
田舎の学校には、子どもたちや保護者だけでなく、地域の人々の想いが深く込められていることがよくあります。
都会では「学校=教育の場」という認識が一般的かもしれませんが、田舎では「学校=地域のシンボル」としての側面が強く、地域住民にとっては“自分たちの学校”という意識、いわゆる“おらが学校”感覚がとても強いのです。
また、こうした“シンボル”としての側面が強いためか、個性的な学校建築もよく見かけます。
最近では地域の特色を反映したモダンなデザインの校舎や、木材をふんだんに使った温かみのある内装が取り入れられることもあり、「この学校で育ってよかった」と思えるような空間づくりがされています。
一方で、昔ながらの木造校舎や昭和レトロな鉄筋校舎など、“時代の味”をそのまま残している学校も数多く存在します。
最新設備とはいかないかもしれませんが、年月を重ねた空間だからこそ醸し出される温かさや記憶が、子どもたちの原風景になっていく――それも田舎の学校の魅力の一つです。
おわりに:学ぶ場ではなく、暮らす場としての学校
ここまで、田舎の学校事情を「人数以外の観点」からご紹介してきました。
読み進める中で、「やっぱり田舎の学校は不便そう…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
正直なところ“学ぶ環境”という視点だけで比べれば、都会の方が恵まれていると感じる場面は多いです。
しかし、学校を“暮らしの中の一部”として見ると、田舎には都会にない良さがたくさんあることにも気づきます。
たとえば、
- 子どもも親も、地域全体で顔が見える関係性の中で育っていく
- 小さな学校だからこそできる柔軟な取り組み
- 自然と地域に囲まれた安心感のある学びの場
どれも、都会では得がたいものです。
移住を考える際には、ぜひ「何を優先したいのか」を軸に、教育環境を見てみてください。
学力重視なのか、地域との関わりを重視するのか、子どもの性格に合わせて考えるのか――
答えは家庭によって異なりますが、その視点を持つことで、自分たちに合った場所がきっと見つかるはずです。
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